はじめに
公務員試験の合格を目指すうえで、志望先の自治体研究は避けて通れません。単に「公務員になりたい」だけでは面接を突破できないのが現実です。特に都道府県庁クラスになると、その自治体が抱える課題や政策の方向性を深く理解し、自分なりの考えを持っていることが求められます。
私自身、受験生時代には複数の自治体を比較しながら研究を進めました。長野県庁を志望するなら、単に「自然が豊か」「観光地が多い」といった表面的な理解では不十分です。少子高齢化が進む中山間地域の課題、ゼロカーボン社会への挑戦、移住促進といった具体的な政策テーマに踏み込んで理解することが、説得力ある志望動機につながります。
この記事では、長野県庁の組織体制から業務の特徴、採用試験の傾向、そして現役職員の生の声まで、受験対策に必要な情報を網羅的にお届けします。
長野県の基本情報と組織概要
長野県は中部地方に位置し、8つの県に囲まれた内陸県です。人口は約202万人(2024年時点)で、全国15位前後の規模。県庁所在地は長野市ですが、松本市も中核市として重要な拠点となっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約202万人 |
| 面積 | 13,561.56km²(全国4位) |
| 県庁所在地 | 長野市 |
| 職員数 | 約4,500人(知事部局・教育委員会等含む) |
| 年間予算規模 | 一般会計約9,000億円 |
地理的には、南北に長い形状で北信・東信・中信・南信の4つの地域に分けられます。それぞれの地域で産業構造や文化が異なり、県庁職員として勤務する際には地域特性を理解することが欠かせません。軽井沢や白馬といった観光地を抱える一方、中山間地域では過疎化や高齢化が深刻化しています。
農業産出額は全国上位で、りんご、ぶどう、レタスなどが有名です。また、精密機械工業が盛んで、諏訪地域を中心に高度な技術を持つ企業が集積しています。
「長野県は広域な県なので、北から南まで車で移動すると3時間以上かかることもあります。地域ごとに気候も文化も違うため、県民ニーズも多様です。だからこそ、現場主義で各地域に足を運び、直接話を聞く姿勢が大切だと感じています。自然災害も多い県ですから、防災対策や復旧支援では地域との信頼関係が何より重要になります」(企画振興部・入庁7年目)
長野県庁の業務の特徴
長野県庁の業務は、多岐にわたります。広大な県土と多様な地域特性を持つため、一つの政策を進めるにも地域ごとの調整が必要になることが特徴です。
福祉・医療分野
少子高齢化が全国平均を上回るスピードで進行しており、医療・介護体制の充実が急務です。特に中山間地域では医師不足が深刻で、地域医療の確保が大きな課題となっています。「信州ACE(エース)プロジェクト」では、健康長寿県としてのブランドを活かし、県民の健康づくりを推進しています。
産業振興・観光
精密機械産業の支援、農業の6次産業化、観光振興など、地域経済の活性化に向けた施策が幅広く展開されています。特に観光分野では、インバウンド需要の取り込みやアフターコロナの観光戦略が注目されています。
環境・ゼロカーボン
「2050ゼロカーボン」を全国に先駆けて表明し、再生可能エネルギーの導入促進や森林資源の活用に力を入れています。豊かな自然環境を次世代に引き継ぐための環境政策は、長野県の重点課題です。
教育・文化
「信州教育」のブランド確立に向けて、ICT教育の推進や教員の働き方改革などに取り組んでいます。また、文化芸術の振興や生涯学習の推進も重要な施策です。
防災・危機管理
台風や豪雨による災害が頻発しており、河川整備や砂防事業、避難体制の強化が進められています。2019年の台風19号では甚大な被害が出たため、その教訓を活かした災害対策が継続されています。
「県庁では3〜5年のサイクルで異動があり、福祉から産業振興、教育まで幅広い分野を経験できます。私も入庁後、観光振興、福祉、そして現在は農政を担当していますが、それぞれの現場で県民の生活に直結する仕事ができることにやりがいを感じています。ゼネラリストとして成長できる環境だと思います」(農政部・入庁10年目)
長野県庁の代表的な政策・取り組み事例
長野県庁が現在力を入れている政策を理解することは、面接対策の要となります。以下、主要な政策を紹介します。
1. ゼロカーボン戦略の推進
2019年に気候非常事態宣言を行い、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指しています。再生可能エネルギーの導入促進、省エネ住宅の普及、森林吸収源対策など、総合的な取り組みを展開。太陽光発電や小水力発電など、地域資源を活かしたエネルギー政策が特徴的です。
2. 移住・定住促進「信州暮らし推進」
人口減少対策として、都市部からの移住促進に力を入れています。移住相談窓口の設置、お試し居住制度、起業支援など、多面的なサポート体制を整備。テレワークの普及も追い風となり、移住者数は増加傾向にあります。
3. 観光振興とブランド戦略
「信州ブランド」の確立に向けて、観光資源の磨き上げとプロモーションを強化しています。白馬や軽井沢などの国際的な観光地に加え、地域の隠れた魅力を発信する取り組みも。外国人観光客の受け入れ環境整備も進んでいます。
4. 健康長寿のまちづくり
長野県は男女ともに平均寿命が全国トップクラス。この強みを活かし、健康づくり施策を推進しています。減塩運動、野菜摂取の促進、運動習慣の定着など、予防医療の視点から県民の健康を支えています。
5. DX(デジタルトランスフォーメーション)推進
行政手続きのオンライン化、テレワーク環境の整備、データを活用した政策立案など、デジタル技術を活用した県政運営の効率化に取り組んでいます。
これらの政策は面接や論文試験で頻出のテーマです。単に政策名を覚えるだけでなく、「なぜこの政策が必要なのか」「どのような課題があるのか」まで理解しておくことが重要です。
勤務環境・職員文化
長野県庁の働き方や職場の雰囲気について、実態をお伝えします。
異動サイクル
一般的に3〜5年で異動となります。若手のうちは比較的短いサイクルで多様な業務を経験し、ゼネラリストとしてのスキルを磨きます。希望する部署への配属を叶えるためには、日頃の業務実績や自己申告制度の活用が鍵になります。
働き方改革の取り組み
在宅勤務制度やフレックスタイム制度が導入されており、柔軟な働き方が可能になってきています。ただし、部署によっては窓口対応や現場業務があるため、テレワークの活用度合いは異なります。残業削減にも組織として取り組んでおり、ノー残業デーの設定や業務効率化が推進されています。
職場の雰囲気
全体的には協調性を重視する文化があります。県民との距離が近く、現場主義を大切にする職員が多い印象です。一方で、若手職員の意見も尊重される風土があり、新しいアイデアを提案しやすい環境も整いつつあります。
研修制度
新規採用職員研修をはじめ、階層別研修、専門研修など、キャリアステージに応じた研修制度が充実しています。自治大学校への派遣研修や民間企業への派遣なども行われており、スキルアップの機会は豊富です。
職員の声(体験談)
Aさん(地域振興課・入庁5年目)
「私が長野県庁を志望したのは、地元である長野県の地域課題に直接関わりたいと思ったからです。大学で地域政策を学ぶ中で、過疎化が進む中山間地域の現状を知り、何か力になりたいという思いが強くなりました。
入庁後は福祉部門に配属され、高齢者支援の仕事に携わりました。現場の声を直接聞く機会が多く、施策が県民の生活にどう影響するのかを肌で感じることができました。現在は地域振興を担当し、移住促進のプロジェクトに関わっています。都市部から移住してきた方々が地域で新しい生活を始める姿を見ると、この仕事の意義を実感します。
受験生の皆さんには、長野県のどんな課題に関心があるのか、自分なりの視点を持って臨んでほしいです。観光や自然環境だけでなく、人口減少や産業振興など、地域が直面するリアルな課題に目を向けることが、説得力ある志望動機につながります。県庁説明会やインターンシップにも積極的に参加して、生の情報を得ることをお勧めします」
Bさん(農政部・入庁8年目)
「私は県外出身で、大学時代に長野県でのフィールドワークをきっかけに、この県の農業政策に興味を持ちました。中山間地域の農業を支える仕組みづくりに携わりたいと考え、長野県庁を志望しました。
入庁後は企画部門に配属され、総合計画の策定業務を経験しました。その後、念願の農政部門へ異動となり、現在は6次産業化の推進を担当しています。農家の方々と直接対話しながら、農産物のブランド化や販路拡大を支援する仕事は、やりがいがあります。地域の宝である農産物を全国に、そして世界に届けるための戦略を考えるのは、クリエイティブで面白い仕事です。
県庁の仕事は、一つの政策が形になるまでに時間がかかることもあります。しかし、関係者と粘り強く調整し、実現したときの達成感は格別です。受験生の皆さんには、『なぜ長野県なのか』を自分の言葉で語れるように準備してほしいです。県の魅力だけでなく、課題にも目を向け、自分がどう貢献できるかを考えることが大切です」
給料・年収・福利厚生
長野県庁職員の給与水準と福利厚生について説明します。
初任給(大卒程度・行政職)
| 学歴 | 初任給(月額) |
|---|---|
| 大学卒 | 約19万円 |
| 短大卒 | 約17万円 |
| 高校卒 | 約16万円 |
※地域手当や扶養手当などの諸手当は別途支給されます。
年収の目安
年齢や役職によって異なりますが、おおよその目安は以下の通りです。
| 年代・役職 | 年収目安 |
|---|---|
| 20代前半 | 約300〜350万円 |
| 30代前半 | 約450〜550万円 |
| 40代(係長級) | 約600〜700万円 |
| 50代(課長級) | 約750〜850万円 |
主な手当・福利厚生
- 通勤手当:公共交通機関利用の実費支給(上限あり)、自家用車通勤の場合も距離に応じて支給
- 住居手当:賃貸住宅居住者に支給(上限28,000円程度、世帯主の場合)
- 扶養手当:配偶者や子どもがいる場合に支給
- 期末・勤勉手当:いわゆるボーナス。年間4.5ヶ月分程度
- 退職手当:勤続年数に応じて支給
休暇制度
年次有給休暇(年20日)のほか、夏季休暇、結婚休暇、出産休暇、育児休業、介護休暇など、充実した休暇制度があります。特に育児休業の取得率は女性職員でほぼ100%、男性職員でも上昇傾向にあります。
給与水準は他の地方自治体と比較してほぼ平均的ですが、安定した収入と充実した福利厚生が魅力です。
採用試験の内容
長野県庁の採用試験は、大きく分けて一次試験と二次試験で構成されます。
一次試験
教養試験:公務員試験の標準的な内容で、知能分野(数的処理、文章理解)と知識分野(社会科学、人文科学、自然科学)から出題されます。時事問題も含まれるため、日頃から新聞やニュースをチェックする習慣が重要です。
専門試験(大卒程度行政職):行政法、民法、経済学、政治学、行政学などから出題されます。出題範囲が広いため、効率的な学習計画を立てることが鍵です。
論文試験:政策課題についての論述が求められます。長野県の具体的な課題を踏まえた内容が問われることが多いです。
二次試験
個別面接:志望動機、自己PR、長野県の政策に対する理解度などが問われます。面接官は複数名で、一人あたり20〜30分程度の面接が実施されます。
集団討論:受験生数名でグループを組み、与えられたテーマについて討論します。協調性やコミュニケーション能力、論理的思考力が評価されます。
試験倍率の傾向
大卒程度の行政職では、倍率は3〜6倍程度で推移しています。専門職や技術職は区分によって異なりますが、行政職に比べると倍率は低めの傾向です。ただし、年度や経済情勢によって変動するため、あくまで目安として捉えてください。
面接・論文で問われやすいテーマ
- 人口減少対策と移住促進
- ゼロカーボン社会の実現
- 中山間地域の活性化
- 観光振興とインバウンド対策
- 健康長寿のまちづくり
- 防災・減災対策
- デジタル化の推進
これらのテーマについて、長野県の現状と課題を整理し、自分なりの考えを持っておくことが重要です。
志望動機を作るコツ(長野県庁編)
説得力のある志望動機を作るためには、以下のポイントを押さえましょう。
1. 長野県の地域課題に具体的に触れる
「自然が豊か」「観光地が多い」といった漠然とした理由ではなく、具体的な課題に言及することが大切です。例えば、中山間地域の過疎化、若者の県外流出、医師不足、農業後継者問題など、データや事例を交えて説明できると説得力が増します。
2. 長野県の重点政策と自分の経験を結びつける
自分の学びや経験が、長野県の政策にどう活かせるかを具体的に示しましょう。大学での専攻、アルバイト経験、ボランティア活動など、自分のバックグラウンドと県の施策をリンクさせることがポイントです。
3. 「なぜ長野県なのか」を明確にする
他の自治体ではなく、長野県でなければならない理由を明確にしましょう。地元出身者であれば地域への愛着、県外出身者であれば長野県との具体的な接点やきっかけを示すことが重要です。
4. 将来のビジョンを語る
長野県庁でどのような仕事をしたいのか、どう貢献したいのかを具体的に述べましょう。「移住促進に携わりたい」「農業の6次産業化を推進したい」など、具体的な分野や施策に触れると効果的です。
志望動機の例文
「私が長野県庁を志望する理由は、中山間地域の持続可能な発展に貢献したいと考えるからです。大学で地域経済学を専攻する中で、過疎化と高齢化が進む農山村の現状を学びました。ゼミでは長野県の中山間地域をフィールドワークで訪れ、豊かな自然や伝統文化がある一方で、人口減少や担い手不足といった深刻な課題に直面している実情を目の当たりにしました。
長野県が推進する移住促進施策や農業の6次産業化は、地域に新たな価値を生み出す取り組みだと感じています。特に、都市部の人材を地域に呼び込み、地域資源を活かした産業創出を支援する姿勢に共感しました。私自身、大学時代に地域おこし協力隊のサポート活動に参加した経験があり、外部人材と地域住民をつなぐコーディネートの重要性を実感しています。
長野県庁職員として、地域の方々との対話を大切にしながら、持続可能な地域づくりに取り組みたいと考えています」
まとめ
長野県庁は、広大な県土と多様な地域特性を持つ自治体です。中山間地域の課題、ゼロカーボン社会への挑戦、移住促進、観光振興など、幅広い政策分野で先進的な取り組みを進めています。県庁職員として働く魅力は、地域に密着しながら県民の暮らしに直結する政策を立案・実行できることです。
自治体研究を進める際には、公式ホームページや総合計画、広報誌などを活用し、最新の政策動向をキャッチしましょう。可能であれば県庁説明会やインターンシップに参加し、職員から直接話を聞くことをお勧めします。
受験勉強と並行して自治体研究を深めることは大変ですが、面接や論文試験で確実に差がつきます。志望動機は、長野県の地域課題と自分自身の経験や思いをしっかりつなげることが何より大切です。単なる憧れではなく、「この課題に取り組みたい」という具体的なビジョンを持つことが、合格への近道となります。
長野県庁での仕事を通じて、地域社会に貢献したいという強い思いを持つ皆さんの挑戦を応援しています。

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