はじめに
公務員試験において、筆記試験と面接試験のどちらが重要かと問われれば、最終的には面接だと答えざるを得ません。どれほど高い点数で筆記を通過しても、面接で「なぜこの自治体を志望するのか」を明確に語れなければ、内定には結びつかないのが現実です。
私が受験生だった頃、最も時間をかけたのが自治体研究でした。静岡県庁を志望するなら、「富士山がある」「お茶が有名」といった観光パンフレットのような知識では不十分です。東西に長い県土がもたらす地域特性の違い、東京・名古屋の二大経済圏に挟まれた立地、南海トラフ地震への備えといった、具体的な政策課題に踏み込んで理解することが求められます。
この記事では、静岡県庁の組織構造から業務の特徴、代表的な政策、採用試験の傾向、そして現場で働く職員のリアルな声まで、受験に必要な情報を網羅的にお届けします。静岡県で公務員として働くイメージを具体的に描けるよう、実践的な内容を心がけました。
静岡県の基本情報と組織概要
静岡県は本州のほぼ中央、太平洋に面した位置にあり、東西に長い地形が特徴です。東部は富士山を擁し、中部は県庁所在地の静岡市、西部は政令指定都市の浜松市を中心に、それぞれ異なる顔を持っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人口 | 約361万人 |
| 面積 | 7,777.42km²(全国13位) |
| 県庁所在地 | 静岡市 |
| 職員数 | 約5,800人(知事部局・教育委員会等含む) |
| 年間予算規模 | 一般会計約1兆3,000億円 |
地理的には、東部・中部・西部の3つの地域に大きく分けられます。東部は富士山麓の観光地や製紙産業、中部はお茶の産地として知られ、西部は輸送機器産業を中心とした製造業が盛んです。この地域ごとの産業構造の違いが、県政運営における重要な視点となります。
経済面では、製造品出荷額が全国上位に位置し、特に輸送機器、電気機械、食料品などの産業が集積しています。農業産出額も全国トップクラスで、茶、みかん、わさび、いちごなど多様な農産物を生産しています。また、伊豆半島や富士山周辺の観光資源も県の重要な財産です。
「静岡県は東西に約155kmもあり、東端から西端まで車で移動すると3時間近くかかります。東部・中部・西部でそれぞれ経済圏も文化も違うため、県政を進める上では地域ごとの特性を深く理解する必要があります。私は現在、地域振興を担当していますが、一つの政策でも地域によって受け止め方が全く違うことを日々実感しています。だからこそ、現場に足を運び、市町や県民の声を直接聞くことを大切にしています」(経営管理部・入庁8年目)
静岡県庁の業務の特徴
静岡県庁の業務は、県の地理的・産業的特性を反映して多岐にわたります。主要な分野について詳しく見ていきましょう。
防災・危機管理
静岡県は南海トラフ巨大地震の想定震源域に位置し、津波被害のリスクも高い地域です。1970年代から東海地震対策に取り組んできた実績があり、防災先進県としての取り組みを進めています。県庁内には危機管理部が設置され、地震・津波対策、避難体制の整備、防災教育など、総合的な防災対策を推進しています。
産業振興・イノベーション
製造業を中心とした産業基盤の強化に力を入れています。次世代自動車、医療健康、航空宇宙など成長産業の育成、中小企業の技術支援、スタートアップ支援など、時代の変化に対応した産業政策を展開。「TOKAI-MaaS」など先進的な取り組みも特徴的です。
農林水産業の振興
「ふじのくに食の都づくり」をキーワードに、農林水産業の成長産業化を推進しています。茶業の振興、園芸作物のブランド化、担い手の確保・育成、6次産業化の推進など、多面的な施策を展開しています。
観光・文化振興
富士山の世界文化遺産登録を契機に、観光資源の磨き上げとプロモーションを強化しています。伊豆半島のジオパーク、温泉地、歴史文化など、多様な観光資源を活かした施策が展開されています。
健康・医療・福祉
健康寿命の延伸を目指し、予防医療や健康づくり施策を推進しています。また、高齢化の進展に対応した医療・介護体制の充実、地域包括ケアシステムの構築にも力を入れています。
教育・人材育成
「有徳の人」づくりを基本理念に、グローバル人材の育成、ICT教育の推進、特色ある学校づくりなど、次世代を担う人材育成に取り組んでいます。
環境保全
富士山をはじめとする豊かな自然環境の保全、脱炭素社会の実現、海洋プラスチックごみ対策など、環境政策も重要なテーマです。
「県庁職員の魅力は、政策のスケールの大きさだと思います。市町村の枠を超えた広域的な課題に取り組めますし、国や他県、民間企業との連携も多いです。私は入庁後、産業振興、福祉、そして現在は環境部門と、全く異なる分野を経験してきました。3〜4年で異動があるため、幅広い視野を持ったゼネラリストとして成長できる環境です。どの部署でも県民の暮らしに直結する重要な政策に関われることにやりがいを感じています」(くらし・環境部・入庁10年目)
静岡県庁の代表的な政策・取り組み事例
静岡県が現在注力している政策を理解することは、面接対策の核心です。主要な政策を詳しく解説します。
1. 南海トラフ地震対策「静岡県地震・津波対策アクションプログラム」
東海地震の切迫性が指摘されて以来、全国に先駆けて地震対策に取り組んできた静岡県。現在は南海トラフ巨大地震を想定し、ハード・ソフト両面から総合的な対策を推進しています。津波避難施設の整備、建物の耐震化促進、避難訓練の実施、防災教育など、「命を守る」ことを最優先とした施策が展開されています。
2. 「ふじのくに」の魅力発信と移住促進
人口減少対策として、県の魅力を積極的に発信し、移住・定住を促進しています。温暖な気候、豊かな自然、東京・名古屋へのアクセスの良さなど、静岡県ならではの強みを活かした施策です。テレワークの普及も追い風となり、移住相談件数は増加傾向にあります。
3. 富士山の世界遺産保全と活用
2013年の世界文化遺産登録を受け、富士山の適切な保全と持続可能な活用に取り組んでいます。登山者数の適正管理、環境保全活動、富士山を活かした観光振興など、保全と活用のバランスを重視した施策が特徴です。
4. 「ふじのくに食の都づくり」
静岡県が誇る多様で高品質な農林水産物を活かし、食の都づくりを推進しています。地産地消の促進、6次産業化支援、食育の推進、農林水産物のブランド化など、総合的な施策を展開。特に茶業の振興では、新たな需要開拓や担い手育成に力を入れています。
5. 次世代産業の育成「ふじのくにフロンティア推進区域」
先端技術を活用した新産業の創出を目指し、医療健康、次世代自動車、航空宇宙などの分野で企業誘致や研究開発支援を行っています。ファルマバレープロジェクトなど、産学官連携による地域産業クラスターの形成も進めています。
6. DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
行政サービスのデジタル化、業務効率化、データを活用した政策立案など、デジタル技術を積極的に取り入れています。県民の利便性向上と働き方改革の両立を目指した施策です。
7. カーボンニュートラルの実現
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー対策、森林吸収源対策など、総合的な脱炭素施策を展開しています。
これらの政策は面接や論文試験で頻出のテーマです。政策の背景にある課題や県民ニーズを深く理解し、自分なりの考えを持っておくことが合格への鍵となります。
勤務環境・職員文化
静岡県庁での働き方や職場環境について、実態をお伝えします。
異動サイクル
一般的に3〜5年程度で異動となります。若手職員は比較的短いサイクルで複数の部署を経験し、県政全般の知識とスキルを身につけます。自己申告制度を活用することで、希望する部署への配属の可能性を高めることができます。
働き方改革への取り組み
在宅勤務制度、フレックスタイム制度が導入され、柔軟な働き方が可能になっています。ただし、窓口業務や現場対応が必要な部署では、テレワークの活用に制約がある場合もあります。時間外勤務の削減にも組織的に取り組んでおり、定時退庁日の設定や業務の見直しが進められています。
職場の雰囲気
全体として真面目で堅実な職員が多く、県民目線を大切にする文化があります。地域との距離が近いため、現場の声を丁寧に聞き取り、政策に反映させる姿勢が重視されます。近年は若手職員の意見を積極的に取り入れる風土も育ちつつあり、新しいアイデアを提案しやすい環境が整いつつあります。
研修制度
新規採用職員研修から始まり、階層別研修、専門研修、派遣研修など、キャリアステージに応じた充実した研修制度があります。自治大学校への派遣、民間企業への派遣研修、海外研修なども実施されており、多様な学びの機会が提供されています。
地域勤務の可能性
県庁本庁での勤務だけでなく、県内各地の地域機関(県民センター、保健所、農林事務所、土木事務所など)への配属もあります。地域勤務では現場に密着した業務に携わることができ、県民との直接的な関わりを通じて仕事の意義を実感できます。
職員の声(体験談)
Eさん(経済産業部・入庁5年目)
「私が静岡県庁を志望したのは、地元である静岡県の産業振興に貢献したいと考えたからです。大学で経営学を学ぶ中で、地域経済の活性化には行政の役割が重要だと感じるようになりました。特に静岡県が進める次世代産業の育成や、中小企業の技術支援といった施策に魅力を感じました。
入庁後の最初の配属は健康福祉部でした。正直なところ、希望とは異なる部署で戸惑いもありましたが、今振り返るとこの経験が貴重でした。医療や介護の現場で県民の生活実態に触れ、行政サービスがどのように届けられるのかを学べたからです。3年後に希望していた経済産業部に異動となり、現在は中小企業の経営支援を担当しています。
地域の事業者と直接やり取りする中で、政策が地域経済にどう影響するかを肌で感じられることが、この仕事の魅力です。受験生の皆さんには、静岡県のどんな産業や地域課題に関心があるのか、具体的なビジョンを持って臨んでほしいです。県庁説明会には必ず参加して、職員の生の声を聞くことをお勧めします」
Fさん(危機管理部・入庁7年目)
「私が静岡県庁を選んだ理由は、防災の最前線で働きたいと思ったからです。静岡県は南海トラフ地震への備えを全国に先駆けて進めてきた防災先進県です。大学で防災学を専攻し、地震から県民の命を守る仕事に携わりたいという思いが強くありました。
入庁後は県土整備部に配属され、河川管理や海岸保全の業務を経験しました。インフラ整備の現場を知ることができ、防災を多角的に考える視点を養えました。その後、危機管理部に異動となり、現在は地震・津波対策の企画立案を担当しています。市町や関係機関と連携しながら、避難体制の強化や防災教育の推進に取り組んでいます。
防災対策に終わりはありません。常に最新の知見を取り入れ、訓練を重ね、体制を見直していく必要があります。それは大変な仕事ですが、県民の命を守るという使命感を持って取り組めることに大きなやりがいを感じています。受験生の皆さんには、静岡県が抱える防災上の課題を理解し、自分がどう貢献できるかを考えてほしいです。静岡県庁は防災に本気で取り組む自治体であり、志の高い方にはぜひ来ていただきたいと思います」
給料・年収・福利厚生
静岡県庁職員の給与水準と福利厚生について説明します。
初任給(大卒程度・行政職)
| 学歴 | 初任給(月額) |
|---|---|
| 大学卒 | 約19万円 |
| 短大卒 | 約17万円 |
| 高校卒 | 約16万円 |
※地域手当や扶養手当などの諸手当は別途支給されます。
年収の目安
年齢や役職によって異なりますが、おおよその目安は以下の通りです。
| 年代・役職 | 年収目安 |
|---|---|
| 20代前半 | 約310〜370万円 |
| 30代前半 | 約460〜560万円 |
| 40代(係長級) | 約610〜710万円 |
| 50代(課長級) | 約760〜860万円 |
主な手当・福利厚生
- 通勤手当:公共交通機関利用の場合は実費支給(上限あり)、自家用車通勤の場合も距離に応じて支給
- 住居手当:賃貸住宅居住者に支給(上限28,000円程度、世帯主の場合)
- 扶養手当:配偶者や子どもがいる場合に支給
- 期末・勤勉手当:年間で給料月額の約4.5ヶ月分
- 退職手当:勤続年数に応じて支給
- 地域手当:勤務地によって支給(静岡市、浜松市など)
休暇制度
年次有給休暇は年20日付与されるほか、夏季休暇、結婚休暇、出産休暇、育児休業、介護休暇など、ライフイベントに応じた休暇制度が充実しています。育児休業の取得率は女性職員でほぼ100%、男性職員でも年々上昇しており、ワークライフバランスを重視する組織文化が育ちつつあります。
給与水準は他の都道府県と比較して標準的ですが、安定した収入と手厚い福利厚生が確保されています。
採用試験の内容
静岡県庁の採用試験は、一次試験と二次試験で構成されます。
一次試験
教養試験:知能分野(文章理解、数的処理、判断推理、空間把握、資料解釈)と知識分野(社会科学、人文科学、自然科学、時事)から出題されます。標準的な公務員試験の形式で、日頃から新聞やニュースに目を通す習慣が重要です。
専門試験(大卒程度行政職):行政法、民法、経済学、政治学、行政学、社会政策、国際関係などから出題されます。出題範囲が広いため、早めに学習計画を立て、効率的に対策することが求められます。
論文試験:県政に関わる政策課題についての論述が求められます。静岡県の具体的な施策や地域課題を踏まえた内容が問われることが多いため、日頃から県の政策動向をチェックしておくことが重要です。
二次試験
個別面接:志望動機、自己PR、静岡県の政策に対する理解度、公務員としての適性などが問われます。面接時間は一人あたり20〜30分程度で、複数の面接官によって実施されます。
集団討論:数名のグループで与えられたテーマについて討論します。論理的思考力、コミュニケーション能力、協調性、リーダーシップなどが総合的に評価されます。
適性検査:職務遂行能力や性格特性を測定する検査が実施されます。
試験倍率の傾向
大卒程度の行政職では、倍率は4〜7倍程度で推移しています。年度や経済情勢によって変動しますが、専門職や技術職は区分によって倍率が異なり、行政職よりも低めの傾向にあります。決して低い倍率ではありませんが、しっかりとした準備をすれば十分に合格可能な水準です。
面接・論文で問われやすいテーマ
- 南海トラフ地震対策と防災・減災
- 人口減少対策と移住促進
- 産業振興(次世代産業、中小企業支援)
- 農林水産業の成長産業化
- 観光振興(富士山、伊豆半島など)
- 健康長寿と医療・福祉の充実
- 脱炭素社会の実現
- デジタル化の推進
- 地域の活性化と東西バランス
これらのテーマについて、静岡県の現状と課題を整理し、具体的な政策と結びつけて自分の考えを述べられるよう準備しましょう。
志望動機を作るコツ(静岡県庁編)
説得力のある志望動機を作成するためのポイントを解説します。
1. 静岡県の具体的な地域課題に言及する
「富士山がある」「気候が温暖」といった一般的な魅力だけでなく、具体的な課題に触れることが重要です。南海トラフ地震への備え、人口減少、東西の地域格差、産業構造の転換など、データや事例を交えて説明できると説得力が増します。
2. 静岡県の重点政策と自分の経験を関連づける
自分の学びや経験が、静岡県の政策にどう貢献できるかを具体的に示しましょう。大学での専攻、ゼミでの研究、インターンシップ、ボランティア活動など、自分のバックグラウンドと県の施策を結びつけることがポイントです。
3. 「なぜ静岡県なのか」を明確にする
他の自治体ではなく、静岡県でなければならない理由を明確にしましょう。地元出身者なら地域への思い入れ、県外出身者なら静岡県との具体的な接点やきっかけを示すことが大切です。
4. 将来のビジョンを具体的に語る
静岡県庁でどのような仕事をしたいのか、どう貢献したいのかを明確に述べましょう。「防災対策に携わりたい」「産業振興に取り組みたい」「農林水産業の成長産業化を支援したい」など、具体的な分野や施策に触れると効果的です。
志望動機の例文
「私が静岡県庁を志望する理由は、防災先進県としての知見を活かし、県民の命を守る防災対策に貢献したいと考えるからです。大学で都市防災学を専攻し、南海トラフ巨大地震について研究する中で、静岡県が1970年代から東海地震対策に取り組んできた歴史を知りました。ゼミでは実際に静岡県を訪れ、津波避難タワーや防潮堤などのハード整備、地域の防災訓練などソフト対策の両面から学ぶ機会がありました。
静岡県は南海トラフ巨大地震の想定震源域に位置し、甚大な被害が想定されています。しかし同時に、長年の防災対策の蓄積があり、ハード・ソフト両面から総合的な対策を推進していることに強く惹かれました。特に『命を守る』ことを最優先とする姿勢、地域防災力の向上に力を入れる取り組みに共感しました。
私自身、大学時代に地域の防災ボランティアに参加し、住民と行政をつなぐコーディネートの重要性を学びました。この経験を活かし、静岡県庁職員として現場に寄り添いながら、災害に強い県土づくりに貢献したいと考えています」
まとめ
静岡県庁は、豊かな自然環境と充実した産業基盤を持つ自治体です。防災対策、産業振興、観光振興、農林水産業の成長産業化など、幅広い政策分野で先進的な取り組みを展開しています。県庁職員として働く魅力は、地域に密着しながら県民の暮らしに直結する大規模な政策立案・実行に携われることです。
自治体研究を進める際には、静岡県の公式ホームページ、総合計画、各種白書などを活用し、最新の政策動向を把握しましょう。可能であれば県庁説明会やインターンシップに参加し、職員から直接話を聞くことで、よりリアルな情報を得ることができます。
受験勉強と並行して自治体研究を深めることは容易ではありませんが、面接や論文試験では確実に差がつきます。志望動機は、静岡県の地域課題と自分自身の経験や思いをしっかり結びつけることが何より重要です。「この課題に取り組みたい」という明確なビジョンを持つことが、合格への最短距離となります。
静岡県庁での仕事を通じて、ふるさとや地域社会に貢献したいという熱意を持つ皆さんの挑戦を心から応援しています。

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